井上陽水/氷の世界
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井上陽水/氷の世界
1.あかずの踏切り(作詞:井上陽水/作曲:星勝/編曲:星勝)
2.はじまり(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝)
3.帰れない二人(作詞・作曲:井上陽水・忌野清志郎/編曲:星勝)
4.チエちゃん(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝・ニック・ハリソン)
5.氷の世界(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝・ニック・ハリソン)
6.白い一日(作詞:小椋佳/作曲:井上陽水)
7.自己嫌悪(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝)
8.心もよう(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝)
9.待ちぼうけ(作詞・作曲:井上陽水・忌野清志郎/編曲:星勝)
10.桜三月散歩道(作詞:長谷邦夫/作曲:井上陽水/編曲:星勝)
11.Fun(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝・ニック・ハリソン)
12.小春おばさん(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝)
13.おやすみ(作詞・作曲:井上陽水/編曲:星勝)

昔から欲しいと思っていた『氷の世界』を買いました。このアルバムが出たのは、昭和48年(1973年)で、私が高校生の時です。それまでLP(アルバム)で最も売れたといわれていたビートルズの『レット・イット・ビー』を抜いて、初めて100万枚を突破した記念碑的なアルバムです。日本の音楽界もこのアルバムの登場によって、本格的なLP時代を迎えることになりました。当時の私は、FMラジオから録音したカセットテープで聴いていましたが、最新の高音質SHM-CDで聴いてみたいという衝動に駆られたのです。

あらためて聴き直すと良い曲が多いことに気がつきます。忌野清志郎との合作である『帰れない二人』、小椋佳が作詞した『白い一日』、そして『小春おばさん』などは名曲です。楽器編成はシンプルですが、陽水の伸びのあるボーカルと星勝のアレンジが泣かせます。ロンドンのミュージシャンの演奏が曲の良さを引き出しています。

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このアルバムで最も注目すべき曲は、アルバムタイトルにもなってる『氷の世界』です。Cubase 5 にそのオーティオトラックを読み込み分析してみました。この曲はピアノ、ベース、ドラム、ギター、コーラスの全てがロンドンのミュージシャンによって演奏されています。編曲には星勝と一緒にニック・ハリソンがクレジットされています。ニック・ハリソンはブラスアレンジまで担当しています。陽水の曲をロンドンのミュージシャンが料理したとも言えるでしょう。歌詞は「窓の外ではリンゴ売り、声をからしてリンゴ売り」という陽水らしいフレーズで始まり、『傘がない』と同様に、社会との断絶や疎外感を歌っています。個人的には『傘がない』の方が好きですが、「毎日、吹雪、吹雪、氷の世界」というフレーズが印象的です。とにかくメロディとサウンドが素晴らしい。レコーディングにはかなりの時間を要したと思われます。サウンドに密度があり、いまでも十分楽しめます。上の波形を見ていただくとわかるように、音圧を高めているわけではなく、LPを忠実に再現しようとしているように思えます。ですから、音質的には古さを感じさせます。SHM-CDにするにあたっては、大胆にリミックスしても良かったのではないでしょうか。(しかし、オリジナルをいじることはできないのでしょうね。)

『帰れない二人』のシンプルなアコースティックギターを中心としたアレンジも魅力的です。こちらは、細野春臣のベースと高中昌義のエレクトリックギター、そして深町純のキーボードが効果的です。星勝の才能を感じさせる最高のトラックです。『あかずの踏切り』は星勝の作曲で、『氷の世界』同様にロンドンのミュージシャンの力をうまく引き出しています。



アルバムのハイライトである『小春おばさん』はドラマチックです。イントロから泣けてしまいます。センチメンタルな歌詞と陽水のボーカルが素晴らしい。サウンドはポール・マッカートニーとジョージ・マーチンが加わっているのではないかと思ってしまうぐらい良くできています。ロンドンで録った成果が随所に感じられます。当時は外国でのレコーディングは珍しいことでした。そのチャレンジ精神がこの創造力に満ちたアルバムを生み出したのでしょう。
by manabinomori | 2010-07-11 17:12 | 音楽
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