カテゴリ:展覧会レポート 東京( 40 )
トーマス・ルフ展 写真はアートにとっていまだに“新しい”メディア
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昨年観た写真展ではライアン・マッギンレー展が最も刺激的でしたが、次に興味深かったのが東京国立近代美術館で開催された「トーマス・ルフ展」でした。彼は1958年にドイツで生まれました。私と世代が近いこともあり、彼の作品の変遷は私自身の歴史とも重なります。日本では初めての回顧展になりますが、2012年の美術手帳「パラダイムシフトを遂げる写真環境」としてすでに取り上げられていました。
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彼が注目を集めることになったのがこの2メートルにも及ぶポートレイトです。「私が自分の作品を自伝的なものだと言う理由は、制作のきっかけを日常生活のなかにつかんでいるからです」(美術手帳2012年8月号)と言っているように、作品の素材は身の回りにあります。このポートレイトはその代表的なものでしょう。
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まるで抽象絵画を思わせるこれらの作品では、イメージが特定できないほどに拡大したりレタッチしたりしながら、新たな世界を創造している。メディアの進化やデジタル化の中で写真としての可能性を追い求めている。
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「私が作品を通してずっと試みてきたことは、人々の足を少し止めさせて、彼ら自身が何を、どのように見ているのかを考えるための、ひとつのイメージを差し出すことです」とのことです。ここではそれが具現化されています。
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日本の報道写真を使いながら作品にしています。
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「ヌード」シリーズです。インターネットの画像を臆することなく使ってしまうというあたりが面白いし、それが問題になることもない。このあたりの絶妙な感性がどの作品からも感じられます。「すべての人が、写真の影響から逃れることはできない」という彼の言葉は、時代と共に増しているように感じました。確かに「写真はアートにとっていまだに“新しい”メディア」なのです。
by manabinomori | 2017-01-02 19:47 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)
篠山紀信写真展「快楽の館K」
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原美術館は素敵なミュージアムですが、雨の日に訪問するには厳しいものがあります。昨年の9月24日(土)に訪問した時は、品川駅から歩くのが辛かったことを思い出します。さて、そのHARA MUSEUMのフライヤーには、どこかマグリットの絵画を連想させる写真が掲載されています。独特の雰囲気があり私のお気に入りでもあります。ヌードを掲載したフライヤーと言うことで画面が暗くしてありますが、この程度のヌードでもフライヤーとしては配慮が必要であることを示しています。
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本展で画期的なのは、篠山紀信が原美術館を舞台に30名にものぼるモデルを起用して撮影したということです。撮影した場所にそのまま作品として展示されているのはなんとも不思議な感覚になります。ユニークなのは超広角レンズを多用した巨大な作品になっているということです。今月号のアサヒカメラでその一端を見ることができますが、その歪んだ空間は静止した映画を観ているかのようです。
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会場内は写真撮影が禁止されていますが、外にはこのような遊びがあったりして楽しませてくれます。篠山紀信は毒のない写真家ですが、緻密に企画・撮影された写真には、優れた創造力と技術がつまっています。ある意味では篠山紀信だからできる道楽の写真展のようにも思えますが、だからこそ篠山紀信は偉大なのでしょう。
by manabinomori | 2017-01-01 22:43 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)
今年鑑賞した展覧会
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今年鑑賞した展覧会で最も印象に残ったのは国立新美術館で開催された「ダリ展」です。作品の強さに圧倒されてしまいました。人物画の魅力を再認識させられたカラヴァッジョ展も忘れられません。写真展では東京オペラシティ アートギャラリーで開催された「ライアン・マッギンレー BODY LOUD!」です。写真の可能性を示してくれました。札幌では「アグネータ・フロックの世界展」が素敵でした。デザインではギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「明日に掛ける橋」が良かった。グラフィックデザインの歴史を学ぶ機会になりました。あ、ストックホルム現代美術館で観た「草間彌生展」も良かったですね。作品を観ることは老化しつつある脳の栄養ドリンクになります。
by manabinomori | 2016-12-31 10:33 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)
ダリ展2016 私は君の作品が嫌いだ
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国立新美術館で開催されている「ダリ展」に行って来ました。私にとってのダリとは「絵画に三次元の超現実的な空間を生み出した画家」であり、「偏執狂的批判的方法」を用いた視覚的な天才画家というイメージです。ある意味で、空前絶後のナルシストだったのではないかと感じることがあります。
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ここは日本の美術館なので撮影禁止ですが、復元された「メイ・ウエストの部屋」での撮影は許されました。このようなサービス精神をもっと増やして欲しい。この部屋にはダリらしいマジックが感じられます。
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図録の表紙になっているのは、本展で最も印象に残った作品の一つである。「謎めいた要素のある風景」です。これは1934年の作品で、シュールレアリスム時代を象徴する内容になっています。ダリならではの心象風景で、そこに様々な仕掛けがあるのですが、映画のようなリアリティが存在しています。
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今回は絵画ばかりではなく、ルイス・ブニュエルとの映画「アンダルシアの犬」なども上映されていました。過激な描写は今日でも古さを感じさせません。毒を抜かれたディズニー映画にもダリならではの世界観がありました。個人的にはコペンハーゲン(1935)→ロンドン(1936)→パリ(1938)と開催された「シュルレアリスム国際展」のパリ展でのダリによるインスタレーションが好きでした。彼にかかると全てがモチーフになってしまうのです。
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これはルイス・ブニュエルの肖像画(1924)で、印象派やキュビズムの影響を受けながら、自分の絵画を模索していた時代の作品です。この絵からは当時としては異例な飛び抜けた存在感があります。その理由は、ガラについて描いた絵もそうなのですが、そこにもう1人の自分を見ることができたからではないかと思います。
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「オーケストラの皮を持った3人の若いシュルレアリストの女たち」(1936)は性的な解釈される作品ですが、そのような概念を絵画の中に投影できたというのもダリらしい。
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ダリは写真家フィリップ・ハルスマンとの共同作品を残している。中でもこの「ダリ・アトミクス」はあまりにも有名です。普通の画家がこんなモデルをするだろうか。そう考えるとダリという人物がいかにユニークな人であったのかが分かる。
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「狂えるトリスタン」は私が好きな作品の一つです。ダリによる舞台デザインから生まれた作品であり、ダリらしからぬラフな描写が逆にイメージの拡散を生み出しています。
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というわけで、3時間近くダリを鑑賞しました。おなかがいっぱいになったほどです。ところで、横尾忠則がダリと会ったときに、「君は私が好きかも知れないが、私は君の作品が嫌いだ」と言って、横尾のカタログを投げ捨てたと言います。横尾は驚いたようですが、実はダリの本質はそこにあるのではないかと思いました。
by manabinomori | 2016-11-27 11:30 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)
デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法
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報告が遅くなりましたが、21_21 DESIGN SIGHT で開催されている「デザインの解剖展: 身近なものから世界を見る方法」を紹介します。
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旧防衛庁跡地に誕生した東京ミッドタウンのガーデンは、芝生、遊歩道、小川があってここが六本木にあることを忘れさせてくれます。
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「えー!並んでるぅ…。」21_21 には何度も来ていますが、こんな列をなしているのは初めてのことです。しかもその多くが大学生です。これには驚かされました。デザインの解剖とは、①身近なモノを ②デザインの視点で ③外側から内側に向かって ④細かく分析することで ⑤ものを通して世界を見る ⑥プロジェクトです。と入り口に掲示されています。展覧会ディレクターはグラフィックデザイナーの佐藤卓さんです。「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインは有名ですが、『デザインの解剖学』シリーズの著書があります。
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会場に入ると巨大な「きのこの山」が出迎えてくれます。本展では、製品を取り巻く世界はもちろん、社会、暮らしとデザインの関係について、さらにはデザインの役割や可能性について、改めて深く考察する機会を目指しているとのことです。
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明治の製品「ブルガリアヨーグルト」「ミルクチョコレート」「スーパーカップ」「おいしい牛乳」を中心に、キャッチコピーや外装のグラフィックの色まで解剖していきます。
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あらためて包装の構成や容器の形を見てみると、そのねらいが明確に感じられます。
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原料や製法、製品管理から流通に至る幅広い要素を掘り下げることによって、知らない多くのことに気づくきっかけをもたらしてくれます。
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「デザインの解剖」とは、素材や味覚、パッケージなど、製品が手に届くまでのあらゆる段階で多様な工夫が凝らされています。それらをつぶさに読み解いていくこととのことです。
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佐藤さんによると、牛乳は世界中で飲まれている人にとって無くてはならない栄養源の一つである。言うまでもなく生乳は牛から毎日しぼり出されるもので人工的に作ることができない。牛だって個性があるわけであるし環境の変化も加わって、どの牛も同じ乳を常に出すわけではない。大量に供給するということは、それに相反して安定供給を常に求められる。牛という「動物」から人間がいただく牛乳が、この難しい環境の中でどのように管理され手元に届くのかということを示しているとのことです。
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ディスプレイも工夫があります。このアイディアは楽しい。
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というわけで、身近なものから世界を見る方法を鑑賞させていただきました。普段何気なく目にしている身の回りの商品を取り上げ、デザインの視点で着目し、どのような工夫がされているのかを分解してさぐることはデザインの新たな可能性をも示しているように感じました。学生によるデザインの解剖プロジェクトも楽しく鑑賞させていただきました。
by manabinomori | 2016-11-10 10:39 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)
ADC展2016 グランプリ
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ギンザ・グラフィック・ギャラリーで、「ADC展2016」を観た。2015年5月から2016年4月までの1年間に発表されたポスター、新聞・雑誌広告、エディトリアルデザイン、パッケージ、CI・マーク&ロゴ、ディスプレイ、テレビコマーシャルなど、約8,000点の応募作品の中から選ばれた昨品が展示されていました。ADC(東京アートディレクターズクラブ)は、1952年の創立以来、日本の広告・デザインを牽引する活動を続けていて、ADC賞は、その年の日本の広告・デザイン界の名誉あるものになっています。今年のグランプリは、大塚製薬「カロリーメイト 見せてやれ、底力。」のポスター、コマーシャルフィルムでした。これがノスタルジックでなかなか良い。黒板アートの良さをうまく引き出している。
by manabinomori | 2016-08-24 11:48 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)
寺下雅一写真展「旅のたまゆら」
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“ニコンサロン bis 新宿”で開催されている、寺下雅一写真展「旅のたまゆら」を鑑賞しました。ニコンのサイトには以下のような説明がありました。

今から30年も前、田舎のローカル線に揺られて作者は旅ばかりしていた。細いレールの先にはおよそ観光とは縁のない、その土地ごとの静謐な日常が営まれているのだった。白い闇のような豪雪の中を、灼熱の太陽の下を、村々を結ぶ列車と停車場に流れる穏やかな時間。それは少しずつ時代の変化に洗われつつも、その後、雪崩を打つかのように失われた「地方」が息づく最後の時代だったのかもしれない。この国の片隅で与えられた日々を生き続ける人々の息遣いが、作者の体に静かに沁みていった。それは幼く未熟だった作者にとって、自らの心のありようと対話する旅だったのかもしれないし、途中下車すべき「停車場」だったような気がしている。

寺下さんとは音威子府時代からのお付き合いがあり、村の活性化のために、東京で二人展を開催したことがありました。この時は村長さんをはじめとする村民の皆様のご支援もありました。あれから何年になるのでしょうか。本展はニコンサロンが主催する写真展であり、写真家としての立場を定着させるものになっています。会場に入って驚くのはその膨大な作品量で、1981-1988に撮影されたフィルム写真でありながら極めて新鮮です。一瞬でその世界に引き込まれてしまいます。鉄道写真でありながら、そこには当時の人々の生活が描かれ、歴史的な価値も感じてしまいます。プリントにするにあたっては、階調表現などに苦労されたとのことでしたが、その成果もありモノクロ写真が持つ美しさが随所から伝わってきます。構図も素敵です。8月29日まで開催しています。ぜひご覧ください。
(上の会場写真は寺下さんのご厚意により撮影させていただきました)
by manabinomori | 2016-08-24 11:41 | 展覧会レポート 東京 | Comments(2)
カラヴァッジョ展
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カラヴァッジョはとんでもない画家だ。暴力的で、自尊心が強く、自分しか信じない。人間的には好きになれない。しかし、だからこそ独自の世界を創造することができたのであろう。
by manabinomori | 2016-05-29 11:40 | 展覧会レポート 東京 | Comments(2)
なんでみんな英語を話さなきゃいけない?
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「東京、大好きだよ。(中略)言葉が英語じゃないところもいい。実は僕、なんでみんな英語を話さなきゃいけない?そんなのおかしいじゃないかって疑問に感じていたから、言葉が通じないことも好きだった。」これはライアン・マッギンレーのインタビュー(美術手帳NO.976)からです。このグローバル化が叫ばれている時代に、なんとも新鮮な発想であり、この感性こそが作品の原点になっているのではないかと感じました。彼は「1万枚撮るかもしれないけど、重要なのは僕がいいと思う1枚だけ。他はどうでもいい。」といっている。写真を山のように撮り、決定的な1枚を探すのが好きなようです。デジタル時代を象徴する写真家らしいところです。そのためでしょうか、私は展示された作品の前後にある写真を想像してしまうのです。
by manabinomori | 2016-05-14 23:06 | 展覧会レポート 東京 | Comments(2)
ギンザ・グラフィック・ギャラリー「明日に掛ける橋」
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今日から出張です。東京では見たい展覧会が沢山あったのですが、そこは大学教員です。秋学期の授業「グラフィックデザインA」で使える教材を優先しました。この授業のスタートはタイポグラフィから入る予定ですが、それに相応しい展覧会がギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されていました。「明日に掛ける橋」と題されたそれは、「ggg」の30周年を記念する1986年から2016年までの30年間の告知ポスター全360点を展示したものです。世界を代表する海外のデザイナー、評論家、美術館学芸員による「これまでの評価と今後に期待すること」をテーマにしています。何時間あっても足りないほど会場一杯にポスターが展示され、それは日本のポスターの歴史そのものでした。ちょっと高価で重い図録も購入しましたので、授業の中で紹介する予定です。昨年話題になったオリンピックのエンブレムの元になったと言われるヤン・チヒョルト展のポスターもありました。
by manabinomori | 2016-05-13 18:47 | 展覧会レポート 東京 | Comments(0)