Beatles/ELENOR RIGBY 『リボルバー』に収録されたこの曲は “ah look at all the lonely people" (ああ、あの寂しげな人たちをみてごらん) というコーラスからはじまります。 この印象的なイントロは、 アイドルだったビートルズのイメージを 一新させるようなインパクトを感じさせます。 弦楽八重奏のバックも『イエスタディ』よりはるかに刺激的で、 ポールのボーカルに負けないぐらい力強く変化に富んだ演奏を聴かせます。 『エリナー・リグビー』は、 クラシック的要素を取り入れた斬新なメロディと、 ジョージ・マーチンのスコアによる弦楽八重奏によって、 これ以上ないほどリリカルで美しい作品に仕上がっています。 この曲のテーマは「世代の断絶」と「同情」です。 それまでにないモチーフを描くことによって、 新しいポップ・ミュージックのあり方を示したともいえます。 『エリナー・リグビー』は、 ジョンがポイントとなる歌詞を書いていますが基本的にはポールの作品です。 当時ピアノを習おうとしていたポールは、 クラシックに強い関心を持ち、恋人のジェーン・アッシャー家の地下室で ピアノを使って作曲したといわれています。 それまでのポールはギターのコードを使いながら作曲していましたが、 ピアノを使うことによってポップスによくある基本的なコード展開にとらわれない 自由奔放なメロディをつくりだすことに成功しています。 それはバロック音楽などに通じる斬新なものです。 ギターを弾きながらこのメロディにコードをあてはめようとすると 「ここのコードはどうなってんだ?」と、困惑してしまいます。 そういう複雑さがこの曲にはあります。 ポールはどちらかというと ジョンよりメロディに対してこだわりが強いのです。 ピアノの鍵盤から予期せぬメロディが生まれ それがポールのすぐれた感性の中でみごとに消化されていったのでしょう。 この時期のポールは 作曲することが楽しくてしょうがないと感じるほど創作意欲に満ちています。 まるで印象派の画家ルノアールが 色彩の美しさをとことん追求した作業と似ています。 個人的には 『エリナー・リグビー』は 『イエスタディ』より完成度が高い作品だと思います。 そもそも『イエスタディ』は ビートルズというよりポールのソロ作品です。 ジョンにいわせると「ビートルズには関係ない曲」ということになります。 しかし『エリナー・リグビー』は ビートルズらしい時代を切り開こうとする様々な試みが感じられます。 ビートルズのコーラスが効果的に入ることによって グループとしての存在感もあります。 ここで触れておかなければならないのは、 ジョージ・マーチンによる弦楽八重奏です。 バイオリン4本、ビオラ2本、チェロ2本による演奏は 魅力的なメロディをさらに際立たせています。 レコーディングにあたっては、弦のすぐそばにマイクをセッティングし、 それまでにない音の追求がなされています。 しかも弦楽器だけで4トラックを使用するなど、 当時としては画期的試みを行なっているのです。 ジョージ・マーチンが書いたスコアも素晴らしく、 それだけで作品として通用すると思います。 ジョージ・マーチンの最高傑作ともいえるでしょう。 『エリナー・リグビー』で忘れてならないのが歌詞の存在感です。 エリナー・リグビーとマッケンジー神父という 孤独な老人たちの物語には、 「優しさ」や「世代の断絶」という多くの人々に共感を与えるテーマが潜んでいます。 リバプールの街を舞台にしながら印象的なフレーズ “ah look at all the lonely people" によって聴くものをその物語に引き入れます。 この曲によってビートルズは ヒットチャートをにぎわすだけの存在ではなくなったのです。 もしビートルズが単なるホップスやロックだけのグループであったならば、 これほど後世に影響を与える存在にはならなかったでしょう。 ポップスやロックを基盤としながら 実験的な試みやクラシックなどの他の分野との融合を図り、 他にはない創造的な活動がそこにはあったのです。 ビートルズの偉大さはそこにあります。 まさに音楽の実験室だったといっていいでしょう。 (2007/1/23)
by manabinomori
| 2009-08-28 01:56
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