Beatles/STRAWBERRY FIELDS FOREVER テープの逆回転や変速、珍しい楽器の使用など、 ビートルズが過去にレコーディング・スタジオで学んだ ありとあらゆることがこの一曲に集約されています。 当時も今も、ポップ史上屈指の名曲の一つです。 これは『ビートルズ・レコーディング・セッション』 の著者マーク・ルウィソーンの言葉です。 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』の出現により、 ポップスは初めて文学と同じように芸術の域に達しました。 もっといえば、ピカソの「ゲル二カ」と同等かそれ以上の仕事を ビートルズはやってのけたことになります。 私は深夜のラジオ番組で初めてこの曲を聴きました。 不思議なイントロに不意を打たれました。 ――なんだろう、この曲は…。 まるで大きな映画館に一人でいるかのような錯覚を覚えました。 曲がエンディングに向かうと音楽が騒音のようになり、 終わったかと思うと再び激しく迫ってきます…。 今まで経験したことのない不思議な感動を覚えました。 いや、それは感動というより恐怖に近いものでした。 その夜は、なかなか眠ることができませんでした。 ストロベリー・フィールドは、 ジョンの家の向かいにある落ち葉がたくさん落ちているグラウンドで、 夏祭りが開かれる孤児院だ。 ジョンは庭のようなところでいつも遊んでいて、 そこはジョンにとっては子供時代の魔法の場所だったんだ。 ぼくらはそれを幻覚的な夢のようなものに置き換え、 みんなの子供時代の魔法の場所にしたのさ。 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』について ポール・マッカートニーはそう語っています。 ジョンがこの曲を書いたのは、 1966年の秋に映画『How I Won the War』の撮影のため 南スペインに滞在していた時のことです。 公演活動を止めたビートルズにとって、 いや、ジョンにとって、 これからの人生をどう生きたらいいのか、 これからどのような活動を続けていったらいいのか、 その課題に突きあたっていたのです。 そこでジョンが行き着いたのが ビートル・ジョンではなく 人間ジョン・レノンでありたいということだったのです。 この時を境にしてジョンは髪型を変え眼鏡をかけます。 それまでのアイドル・ジョンからの決別を図ったのです。 しかし、ジョンは何をしていいのか、 自分はどう進むべきか迷い続けていました。 その迷いの中から、子供時代の自分にもどって 音楽活動に取り組んでみようとしました。 それが『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』だったのです。 詩には遊びや飾りが感じられ、 不確かで鏡の中に住んでいるジョンがいます。 自分を様々な色で着色してしまおうとするジョンがいます。 その幻想的で独自の世界を描写することによって、 ポップスの歴史が塗り変わったのです。 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』には それまでの音楽にはない三つ要素が存在します。 一つは、 当時開発されたばかりのメロトロンという シンセサイザーのような楽器を初めて使用したということです。 イントロでメロトロンを弾いているのはポールで、 メロトロン独特の音色とふわっとしたリバーブ感が、 次にくる「Let me take you down」というボーカルを くっきり浮かび上がらせます。 そしてこの印象的なイントロによって、 聴くものを一気に幻想的な世界に誘いこみます。 ビートルズは時には楽器とも呼べないものまで駆使し レコーディングに使用していましたが、 メロトロンについては、 新しい物好きのジョンが最初に製造された物を入手しています。 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』には ポップス、ロック、クラシックなどで使用される楽器ばかりか、 テープの逆回転によるサウンド・コラージュなど ありとあらゆる音がつめこまれています。 そのサイケデリックなサウンドは 多くのミュージシャンに衝撃を与えました。 二つ目は、 4トラックのテープレコーダーを駆使し、 かつてない複雑なオーバーダビングがなされたということです。 今では考えられないことですが、 当時のレコーディングは4トラックで行なわれていました。 そこにボーカルや楽器などの様々な音を詰め込みエフェクトをかけるわけです。 ビートルズによって多重録音という方法が開発されたのです。 つまりビートルズの歴史はレコーディングの歴史でもあったということです。 これらの作業にビートルズは多くの時間を費やしました。 ところが完成したものにジョンは納得せず、 ビートルズが演奏したヴァージョンと、 プロデューサーのジョージ・マーチンの管弦楽ヴァージョンを つなぎ合わせて一つにまとめるよう要求します。 キーもテンポも違う二つのトラックを 一つにまとめることなど当時は不可能な話です。 ジョージ・マーチンは「無理だ」と答えます。 しかしジョンは「いや、ジョージ、君ならできるよ」と譲りません。 こうしてアビーロード・スタジオでは、 それまで経験したことのない実験が始まりました。 それはまさに月に行くアポロ計画のようなものです。 そして奇跡は起きたのです。 最初のヴァージョンの速度を上げ、 もう一つのヴァージョンの速度を下げれば 2曲はうまくつながることをジョージ・マーチンは発見したのです。 こうしてジョンの意図したサウンドに仕上がったのです。 それを成しえたのは、 ジョージ・マーチンとそのスタッフの努力に他なりません。 ちなみに二つのヴァージョンがつなぎあわせられているのは、 スタートからちょうど60秒のところです。 三つ目は、 この曲がそれまでの多くの曲と異なり おとぎ話のような幻想的な詩で構成されているということです。 よくいわれるように『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』は ルイス・キャロル、エドワード・リアなどの文学と関連づけられます。 それは以前のポップスでは考えられないことです。 つまりポップスをそれまでの単なるラブソングから、 芸術作品として評価されるきっかけをつくったのです。 この圧倒的な衝撃が、次の『サージェント…』をも導き出したのです。 新たな可能性を示した歴史的な作品なのです。 ジョンはこの曲で 聴き手との間に言葉のやりとりを行なっています。 それがドラッグと関連づけられたり ポール死亡説をつくり出すなど、 一つの社会的現象を生み出すきっかけにもなりました。 注目すべきは、 この曲をカバーしているのが トッド・ラングレンやピーター・ガブリエルだということです。 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』は 間違いなく当時のカリスマ的な存在でした。 1989年10月26日、リバプールでジョン追悼コンサートが行われました。 そこで、ポールはこの曲を歌いました。 かなり感傷的なボーカルでしたが、 そのこともまたこの曲の重要さを物語っています。 一方で 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』の登場は、 ジョンとポールの創作活動の向かう方向が一つでないことも示しました。 ポールはこの曲に触発されて『ペニーレイン』という名曲を書きました。 レノン/マッカートニーというよりレノン/マーチンといった方がいい作品です。 『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』は、 20世紀の音楽を変える起点となったのです。 (2007/1/24)
by manabinomori
| 2009-09-04 21:35
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