蠣崎波響の『夷酋列像』には、アイヌの指導者12人が描かれています。ブザンソンにあるのはそのうちの11枚ですが、その中に1人だけ女性が描かれています。それがチキリアシカイです。彼女はクナシリの長老ツキノエの妻でした。この作品には、松前藩の政治的な意図が隠されています。蠣崎波響は画人とはいうものの、実際は家老であり、江戸から松前藩を守らなければならならない立場にあったのです。したがって、その立場で『夷酋列像』を描いています。ただし、波響の心を隠せない描写が一つだけありました。それがこの目です。女性であるチキリアシカイも同様です。この描写こそが当時のアイヌの人達の気持ちを代弁しているのではないかと思えてなりません。もしアイヌ民族を服従させた証としての絵であれば、ここまで怖い目にはしないはずです。つまりアイヌの心を理解していたからこそ、波響はこのように描いたのではないかと思えてなりません。そこにはアイヌの怒りや悲しみが感じられるのです。