毛綱毅曠 幣舞中学校1
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22183398.jpg
毛綱毅曠は、調べただけで5つの校舎を設計しています。それは、釧路市立東(現 幣舞)中学校(1986)、秋田県若美町立鵜木小学校(1988)、北海道釧路湖陵高等学校(1990)、香川県丸亀市立城乾小学校(1999)、白糠町立茶路小中学校(2002)です。釧路市には毛綱毅曠の母校である幣舞中学校と釧路湖陵高校があります。釧路湖陵高校は北海道の基準が厳しかったためか、毛綱毅曠らしさがほとんど出ていません。しかし、釧路市立幣舞中学校では、釧路市の支援もあり大胆で斬新な校舎になっています。校舎としては日本の歴史に残るデザインの一つだと思います。今日はその幣舞中学校を訪問しました。何回かにわけて紹介していきます。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_2210251.jpg
幣舞中学校は、平成16年(2004)4月1日に弥生中学校と東中学校が統合して開校しました。校舎は東中学校のもので、これこそが昭和61年(1986)に毛綱毅曠がデザインして完成させたものです。建築には3年をかけています。校舎に3年もかけるというのは常識ではあり得ないことです。釧路市議会や市民を巻き込んでのデザイン論争に発展したといういわくつきの校舎でもあります。当時、釧路市長であった鰐淵俊之は、春採公園に建てる公共建築については、「合理性、経済性の最優先という前提を可能な限り離れた文化的要素の高い建築群とする」としています。いま考えると、鰐淵俊之がいたからこそ釧路市に毛綱毅曠の優れた建築が誕生したのです。それがいまの釧路市のイメージを形づくっているのです。上の写真は校長室に展示してあったものです。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22105736.jpg
職員玄関側から見たところです。中学校の校舎というよりも大学の校舎のような風格があります。毛綱毅曠らしいのは、校舎そのものが階段状に配置されているところです。合理性を考えればこのような配置は一般的ではありません。毛綱芸術と予算とのギリギリのせめぎ合いが繰り広げられたことを感じとることができます。校舎の特徴になっているアーチについても、12本を主張する毛綱毅曠と釧路市との間で激しいやりとりがあったようです。最終的には7本になりましたが、12本にして欲しかったですね。そうなっていれば、より空間が魅力的になっていたはずです。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22111325.jpg
奥に見えるのが生徒玄関です。正門は左側にあり、生徒が登校してくるとこの空間に出てきます。“学びの森 第2号”の「もうひとつのミュージアム」の中で、私は「校舎は生徒の精神面に大 きな影響を与える」と書きました。そこでは、おといねっぷ美術工芸高校の玄関ホールのことについて書いていますが、同様のことがこの中庭にもいえます。校舎の概要には、「校舎の上につきでる巨大な7本のアーチは7色の虹をあらわし、外観をいっそう個性的なものとし、シルバーグレーの校舎とともに、重厚で、芸術的でさえある。」と記されています。この空間に毎日触れられる生徒は幸せです。この視覚や心を刺激する校舎は、生徒に夢や勇気を育てることにつながっていくことでしょう。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22115065.jpg
このアーチは1本1,000万円ともいわれています。材質は、なんとトタンでつくられています。本来であればアーチは構造上、特別な意味を持つはずなのですが、ここでは単なる飾りとして設置されているのです。日本の校舎史上最も贅沢なつくりともいえます。そして、このアーチこそがこの校舎のイメージを決定する最重要部分なのです。毛綱毅曠らしいのは、7本のアーチを一直線に並べていないことです。それを微妙にずらすことにより、空間に変化をもたらしています。アーチ付け根の部分のデザインも奇抜で、その存在をより印象的なものにしています。凄すぎるデザインです。丸い窓も個性的で、これらのこだわりこそが毛綱毅曠なのです。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22121212.jpg
生徒玄関の真上です。毛綱建築の特徴の一つは、シンメトリーを効果的に使っているということです。それが安定感を与えます。しかしよく見ていくと、左右が微妙に違うことに気がつきます。ここでは窓の間隔がそれに該当します。この技法は彼の建築物によく見ら、このことがシンメトリーをより魅力的にしている要因に感じます。上に突き出ている半球状のものもインパクトがあります。反対側から見るとピラミッドのような階段状になっていて、校舎を特徴づけるアクセントにもなっています。時計かなと思っていた真ん中の円は、近寄ると地球ゴマか方位磁針を連想させるようになっています。「君たちこそが地球の真ん中にいるのだ」と生徒に示しているかのようでもあります。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22123293.jpg
それを校舎の内側から見るとこうなります。実はステンドグラスになっていて、夕日が入ってくるととても美しいのです。ホールに幻想的な雰囲気をもたらし、それが時間とともに変化していくのです。毛綱毅曠らしい宇宙的トリックがここにあります。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22125292.jpg
1・2階部分と3階部分のつくりが異なります。曲線と直線のコントラストを意識させ、それが美しいのです。校舎でここまでこだわるケースはあり得ません。一般の建物だってそうはないでしょう。下から上へと空へ広がっていく楕円形の校舎の最上部に変化を与え、アーチだけが浮いてしまうのを押さえるとともに、空へ逃げていく空間をアーチとともに呼び戻す役割を果たしています。縦長の窓もそれを助けています。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_2213675.jpg
奥は体育館ですが、この角度から見るといかに複雑な建物であるかがわかります。歩道と芝のレイアウトも単純ではありません。左奥の方では曲線を使っています。歩く度に空間が変化し、自分自身を確認させる役割を果たしているのです。各階の窓の大きさを見て下さい。それぞれ大きさを変えて、視覚的な変化をもたらしています。
毛綱毅曠 幣舞中学校1_b0108779_22132162.jpg
生徒玄関です。高さがないので多少圧迫感を感じますが、これは、この校舎の中心である2階玄関ホールに向かうためのプロローグになっています。太い円柱の柱、階段状の円形の天井、丸いライト、そして格子状の靴ロッカー。全てが計算されています。ここで生徒はちょっとした緊張感を与えられることになります。
by manabinomori | 2011-08-02 22:13 | 釧路のと文化と自然
<< いい季節 知られざる真正閣−100年目の時− >>