スカイ・クロラ(The Sky Crawlers)
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『スカイ・クロラ(The Sky Crawlers)』は、第65回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出されました。つまり、今年世界が注目する映画の一つということです。押井守監督は、『スカイ・クロラ』のホームページで、「僕は今、若い人たちに伝えたいことがある。」として次のように述べています。

「たとえ、永遠に続く生を生きることになっても、昨日と今日は違う。木々のざわめきや、風のにおい、隣にいる誰かのぬくもり。ささやかだけれど、確かに感じることのできるものを信じて生きてゆく──。そうやって見れば、僕らが生きているこの世界は、そう捨てたものじゃない。僕はこの映画を通して、今を生きる若者たちに、声高に叫ぶ空虚な正義や、紋切り型の励ましではなく、 静かだけれど確かな、真実の希望を伝えたいのです。」


「キルドレ」は、子供のくせにタバコを吸い、ビールを飲むパイロットだ。しかし彼らは子供ではなく不老不死の存在である。繰り返されるショートしての戦争の中で、「キルドレ」であるユーイチは自分自身が何者であるかということに疑問を持つようになる。自分とは、肉体のことか、それとも記憶のことか、このことがこの作品のテーマになっている。

同時に描き出しているのは、「生とは何か」「死とは何か」といこうことである。その境界線を巧妙に描くことによって緊張感を与えている。

「殺してほしい?…それとも殺してくれる?さもないと、私たち…永遠にこのままだよ」

女性司令官クサナギ・スイトがユーイチに迫る場面は、自分たちは永遠に「キルドレ」(子供)のままでいいのか、という問いかけになっています。大人になれない子供たち、これは実は私たち自身のことでもあるのです。

「いつも通る道でも、違うところを踏んで歩くことが出来る。いつも通る道だからって、景色は同じじゃない」

主人公カンナミ・ユーイチが最後に語るこのフレーズに、この映画のもっとも大切なメッセージが込められています。そしてこれは、日常の中に埋没している私たち一人一人へのメッセージにもなっています。


『スカイ・クロラ』は、彼の最高傑作である『イノセンス』の密度には及ばないものの、伊藤ちひろという若い女性の脚本家を採用したことにより、そのメッセージを広く伝えることに成功しています。声優を担当した谷原章介がこの映画について次のように語っています。

「とても怖いな、と思いましたね。この作品の怖いところって、完全な非現実じゃなくて、半分ぐらい現実的なところだと思うのです。そこにとてもリアリティを感じますね。」

映像は美しい。雲の表情は圧巻です。3Dを使った戦闘シーン、室内、建物、街の描写、複線にもなっているオルゴール、新聞、タバコ、プロペラ、バイクの描写、さらに手の込んだ色彩や陰影は映画を高度な次元に高めています。ここには日本人でなければつくれない美の世界があります。音楽も完璧です。川井憲次の音楽は映像を見事に生かしていますし、絢香が歌う主題歌『今夜も星に抱かれて...』は心に迫ります。このあたりに天才監督、押井守の徹底したこだわりがあります。映画とは総合芸術であり、どれが欠けても質の高い作品にはなり得ないということです。私がベネチア国際映画祭の審査委員なら、『スカイ・クロラ』に金獅子賞(最高賞)を与えることでしょう。

参考文献/スカイ・クロラ・ナビゲーター(日本テレビ)、スカイ・クロラ・ホームページ
by manabinomori | 2008-08-16 12:48 | アニメーション
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