![]() 『愛はかなしみとともに』再販によせて 平成14年、北海道穂別高等学校創立50周年記念式典の準備を進めているうちに、一冊の本が送られてきました。それは穂別高校卒業生による愛の日記が綴られたものです。その純粋な愛の物語と表現力の高さに、私は驚いてしまいました。それが『愛はかなしみとともに』です。 本書は昭和45年に大和書房より初版が発行され、昭和47年に新装版として大和出版から発行されました。「のこされた純愛の日記」と副題がつけられているとおり、この本は19歳の若さで事故死した、穂別高校卒業の佐々木美智子さんと宮本秀樹さんの日記をまとめたものです。それは「愛すること」や「生きること」の意味を切々と問いかけてくるものです。 恋愛とは、相手を知ることであり、自分を知ることです。そのことによってお互いに成長していきます。それは、人生の中で何ものにも代えがたい喜びが得られるとともに、その過程では様々な戸惑いや苦悩にも直面するのです。この愛の物語は、純粋で知性豊かな2人だからこそ到達できた世界だと思います。そして、それが事実であるが故に心の奥底まで入ってくるのです。 あの人は 汽車の中の私が見えないとしても 手を振るつもりだったのだろうと思う。 私が手を振り返すと、 驚いたかのように一度手を止めた。 私はあの人が見えなくなるまで手を振った。 見えなくなると たまらなくなって 涙が流れてきた。 (佐々木道子) 列車の中での一瞬のできごとですが、道子さんらしい優しさと思いやりが感じられます。何度読んでも心を打たれます。その心の美しさに触れてしまうと涙が止まらなくなります。 道子さんは、相手の心を読み取る優れた感性を持っていました。それがこの日記を質の高いものにしています。その感性を生かしながら、自分自身をみつめ成長していきます。人生を前向きにとらえ、よりよい自分をつくりだそうとする姿勢はとても素敵なものです。 今でも ぼくの心ははっきりしている 君なしでは ぼくは ぼくにもなれない (宮本秀樹) 秀樹さんの書いたこの文はとても素直です。そして彼を支えていたのが道子さんであることを明確にします。恋愛とは、他人であった2人が1人になろうとする行為です。そのことによって、お互いに大きく成長することができますが、一方では1人でいることがたまらなく辛くなるのです。 秀樹さんはとても強い人です。自己主張することができ、夢を描き出す力も持っています。しかしその内面はガラスのように繊細な部分も感じられます。道子さんとのコミュニケーションにより、自分自身のアイデンティティーを確立させていたのでしょう。 さて、2人の日記を読んで感じたことは、1日1日がとても充実していたということです。2人には優れた感性があり、それがあったからこそ豊かで密度のある時間をつくり出すことができたのだと思います。愛することとは、自分を知ることであり、相手を大切にすることであるということが丁寧に描かれています。 私は『愛はかなしみとともに』をもとに、創立50周年記念賛歌として『銀のしずく』を完成させました。作詞にあたっては、この物語をベースに2人が通学に使った国鉄旧富内線にある富内駅を取材しました。旧富内駅は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にちなんで、銀河ステーションと名付けられています。 ある日、作詞がはかどらず旧富内駅で夜空を見上げていると、突然、歌詞とメロディーが舞い落ちてきました。それは、それはまるで2人が私に与えてくれた贈り物のようでもありました。 平成14年10月26日、創立50周年記念式典が予定通り開催されました。式典のアトラクションには、私が作詞作曲した『銀のしずく』が生徒と教員によって披露されました。私はただ瞳を閉じてそれを聴いていました。2人への感謝の気持ちとともに。 銀のしずく 銀河の駅で出会った人は 愛は悲しみとともにあるといった 数え切れない星くずの下 僕らはなぜかさよならをいった 銀河の森は季節を越えて 今も夢を語り続けている 流れる星に願いをこめて 古いベンチに銀のしずくひとつ 何億もの光につつまれ 見つめていた 誓い合った壁の落書き だききしめて 銀河の駅から人影が消えて かすかに聞こえる星めぐりの歌 落ち葉に埋もれた道の向こうで 君はいつも笑顔をみせていた 何億もの光につつまれ 見つめていた 誓い合った壁の落書き だききしめて 『銀のしずく』は思わぬ評判を呼び、穂別町のご支援によりCD化され、インターネットでも配信していました。平成20年、道子さんの妹である横山愛子さんが偶然それを発見し、私と会うことになったのです。 最後に、読者の皆さんから寄せられた手紙の一部を紹介します。 「2人の清らかな心に感銘しました。この本は私の精神です」 「道子さんの美しい心に打たれました。私の心にいつまでも生き続けることでしょう。」 「この本とのめぐり逢いに感謝せずにはいられません。」 「これほど美しく生きた人はこの世に何人いるでしょうか。2人が得たものは80年の生涯よりも充実しています。」 「この本の持つ崇高さに驚きました。私はこの本に救われました。」 「私は今までとは違う感動に何度も涙しました。2人のために元気いっぱい生きようと思います。」 読まれた方は、この本に出会えたことを心から感謝しています。そして、それぞれの心の支えになっているのです。一冊の本が、人の生き方さえも変えてしまう力があるのです。 『愛はかなしみとともに』は、これからも多くの読者に感動を与え、愛することの喜びと生きることの尊さを教え続けていくことでしょう。 石塚耕一
by manabinomori
| 2009-12-17 23:21
| 本 愛はかなしみとともに
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